★☆斬 ~ZAN~  ★第二章  迷える新米刑事  ☆★

「おばあちゃん!!気ぃつけて病院、行ってきなはれやぁ!!」

剛は、街でも人気も人気の「おまわりさん」である。すっかり地元の住人とも打ち解けていた。
そんな春先のことだった・・・・。彼にとって、転機が訪れた。

今日は、駐在さん、最後の日。いつものように、町の人と、楽しく会話している。
いきなりの刑事への昇進に彼自身、正直戸惑いを隠せずにいた。
とにかく・・・あらかたの荷造りは終えた。
その夜は、彼を惜しむ地元の有志たちの「お別れ会」が、ささやかに行われた。


「おい!そこの新人!!ここへきて自己紹介だ!」
とうとう、この日を迎えた。新しい、配属先は、今までの駐在所とはまったく違う環境。
ここは、泣く子も黙る、新宿南署だった。

簡単に、自己紹介を終えると、今追っている【ヤマ】とやらの会議にはいる。
続々と敏腕刑事たちが、足早に会議室へと向かう。
剛も、そこに加わるため小さく足を前へ一歩踏み出すと・・・・・・・・・・。
「堂本くん」と、声をかける人物がいた。


堂本と呼ばれ、その声に安堵するかのように、ゆっくり振り向くと・・・。

「堂本くんには、申し訳ないが一つ、仕事を頼まれてくれないか?」
係長だった。50代後半の、どうにも刑事・・・とは見えない。然るに、品のいい紳士という印象を持った上司である。
剛に、自分のデスクに座らせると係長は早速、用件を述べた。
「なんで、また?」という率直な疑問にも、上司である彼は、即答した。


係長は、経緯をこう説明したのだった。

署長のお母上が、「堂本老人介護施設」で世話になっているという。なんでも。新人が来ると決まって、そこに慰問にいかせるのが、ここの係りの最初のミッションだという。
なんともハートフルな警察署ではないか・・・・。少々、面食らいながらも、その手の余興には腕に覚えがある。
係長から、早速、施設の案内パンフレットを手渡されて、目を通す。
そして、剛は、すぐさま準備にとりかかった。

朝から、準備に追われた剛は、昼飯を済ませると早速、ミッションを敢行した。
一路。「堂本老人介護施設」へとシルバーの乗用車を走らせた。

それにしても・・・・。
堂本光一理事長って、どない人なんやろ。
剛は、同じ苗字を持つ存在に、遠い親戚に会えるような、そんな想いを抱かせていた。


ぎぃぎぎぎぎぎぎーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
なんともいえない、鉄扉の手荒い歓迎をしょっぱなから受けた剛。

「しっかし!ボロイなぁ!!!!」
うっそうとした木々に囲まれた、その建物を前に開口一番、剛はつぶやいた。
鉄筋コンクリート2階建ての施設は、どう見てもお年寄りたちを支えている建築物には、お世辞にも見えない。

大きな紙袋をあやうげに両腕にひっかけながら、玄関のブザーを鳴らす。インターホンを受けたのは、声から察するに若いスタッフらしい。

ほどなくして、ひとりの青年が、玄関先で颯爽と出迎えてくれた。


「綺麗な人やなぁ・・・・・。」
中性的な顔立ちの青年は、ぽかーんと口を開けている新米刑事に穏やかに微笑んでいた。

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