★☆斬 ~ZAN~★第五章 ある男の独白 ☆★

僕・・・屋良はボスの過酷過ぎる運命を知る唯一のメンバー。
なぜ、親友同然の長瀬さんじゃないのか?とボスに聞くと、一言「あいつは、熱い男だから・・・・」と言って目尻を下げた。

この話をボスから聞いたのは、いつもの歌舞伎町の酒場。
人が多い分、何を喋っているか聞き取れないし、もはや何を喋っているかも分らない状態の酔っ払いたちに聞かれる心配もない。
それに、ボスはここの店長とは「堂本老人介護施設」の理事長としての長年の付き合いだとも言う。裏の顔なんて知られていなかったのだ。

ボスの父親は現「堂本老人介護施設」を一代で築き上げた地域でも有名な人格者であったという。
施設に隣接した自宅は、それはそれは小さく、ウサギ小屋かと見まがうほどだったという。
親子三人、慎ましい生活をしていた。

ボスは一人っ子であった。施設のお年寄りからは、アイドルとして引っ張りだこだった。
そんな楽しい生活も長くは続かなかった。次第に経営が苦しくなりつつあり、銀行も貸し渋りという事態が起こってしまっている。

ボスが中学に入学したときである。バブルがはじけた・・・・・・・。
両親が金策に走り回るなか、そういう施設の危機的状況は入居者の目にも明らかで、当然施設を出て行く、入居者が増えた。
「いっそ、売ってしまいましょう」という母親に父親は決して頷かなかったという。
父親は、決心した。
ボスは、そんな中でも長男として、ここ「堂本老人介護施設」は自分も守る!と誓って高校進学を決めた。バイトをして奨学金で推薦までもらって入学。本来、ボスの学力なら、もっと上のレベルの進学校に進めたはずだし先生にも、説得されたらしい。
しかし、福祉専門の大学を目指すからと断ったそうだ。

ボスは受験勉強にあけくれていた、木枯らしの舞踏会が始まったある秋の日だった。
父親が、忽然と姿を消してしまった。あんなに責任感の強かった親父が施設を残して、いなくなるとは考えられず母と一緒に、それこそ血眼になって探したという。
しかし、消息はとうとう分らないままだった。

大学を無事、卒業したボスは介護施設の資金作りの為のバイトをかけもちしていた。
実は、この酒場でボスはバイトに入り、かなり世話になったという。
そんな生活をして、街はいつのまにかクリスマスシーズン一色に染まっていることに気づいた。
店の仕事を終えたボスは、ふと街外れの公園に自然に目をやった。
そして、一瞬・・・・・・「?!」もういちど目を凝らす。
「まさか・・・。」

ボスは走った。そして息を切らして、叫んだ。

「親父!!!」
ボロボロの作業服姿の背中は明らかに大好きだった親父の大きな背中だ。
もう一度「おやじぃーーーーー!!!!」ボスは叫んで、駆け寄った。

ゆっくり振り返ったホームレスは「こういち?光一なのか?」と立ちすくんだ。
ボスは、滝のように、こぼれおちる涙を拭おうともせずに父親にずっと、しがみついていた。
街は色とりどりのクリスマスカラーで華やぎ、二人をそっと祝福しているかのように・・・・。

また親子水入らずの生活がはじまった。
父親が帰ってくるなり母親に土下座して詫び、一通の通帳をそっと母親に渡した。
畳の上に置かれた通帳を、そっと開くと母親は驚きのあまり絶句した。
その様子を見て、ボスが母の手から通帳をとると「!?」

その金額をボスから聞いた瞬間、あまりの桁の多さに腰を抜かすところだった。
この僕だって、どんなに仕事を3つも4つも増やしたところで、到底稼ぐことの出来ない金額。
瞬時にやばい金であることは理解できた。

ボスも父親に聞こうとした。でも、父親は絶対、口を割ることはないだろう。
ただ一言、「この金で施設を運営する!!再建するんだ!!」とだけ。

幸せな日々って、どうして長くは続かないのだろう。
ボスの両親は、その日もいつものように買い物に車で出かけていった。

ボスも、何の気なく、二人を見送りながら施設の掃除を始めた。
今は、施設に新しい入居者も増えはじめてきたところだった。
経費節減の為になんとか親子三人で施設を運営していた。

そしてボスのもとに一本の電話が入った。叔父からだ。
両親が車で事故にあったというのだ。叔父はパトカーで施設までボスを迎えに来てくれて、そのまま近くの病院に向かうこととなった。
ボスは集中治療室を探した。
しかし叔父はあらぬ方向へと行ってしまうので「なんで?」と、いぶかしがる。

辿り着いた着いた場所は「霊安室」だったのだ・・・。

遺体は目も当てられない状態だったという。どちらが父で母なのか?
ボスは、目の前の事態を冷静に見ていたわけではなかったという。
夢をみているとしか、思えなかったらしい。それも、最悪という「悪夢」を・・・。
叔父は、しばらく遺体の損傷を刑事の目から見ていた。
「光一・・・・これは、かなりヤバイことに巻き込まれそうだぞ・・・」

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック