★「ID」~決断~★SF小説

KOH-1は、息子を目の前に淡々と、これまでのことを語り始めた。

地球では再生プロジェクトが佳境を迎えていた。

その日は、珍しく仕事場に息子のKOH-1ジュニアを連れて行くことにした。

現場の池では水質検査を行っている。薄氷が張っている池のほとりで、ジュニアはKOH-1

と楽しく遊んでいた。

青い空が眩しい・・・。KOH-1は、ふと空を見上げていた。

すると傍で、水がはじける音が耳に飛び込んだ。

ジュニアが池に落ちてしまったのだ。KOH-1は、すぐさま池に飛び込みジュニアを救出。

事なきを得た・・・筈なのに一向にKOH-1が池から上がってこない。

ヒューマノイドたちは、KOH-1を助けるために池の中に潜ると、底の無数のケーブルに足を

取られたKOH-1を見つけ地上に引き上げ、医療チームにバトンを渡した。

唇が真っ青になったKOH-1の姿にヒューマノイド達は動揺していた。

そんな緊急事態に医療チームも、KOH-1の心肺停止に焦りを覚えた。

そこへ一報を聞いたRAINが駆けつけた。

そして、RAINはKOH-1が、事故にあったという現場の状況の説明を受けていた。

「・・・・・。助かるかもしれない。」

医療チームも、そうと分かると安堵の色と共に、ゆっくりとKOH-1の体温を安定させる治療に

移した。

KOH-1の溺れた池の水温はマイナス10℃という冷たい水温。

これが生死を分かつポイントだった。

KOH-1は仮死状態に陥っていたのだった。

RAINとトップシークレットメンバーは、経過を見守っていた。

しかし、その間にヒューマノイド達の間では「KOH-1は死んだ」という噂が流れてしまった。

「心肺停止」という言葉だけが一人歩きしてしまっていたのだ。

ヒューマノイドにとって、人間の死というものは「心臓が止まった=動かなくなる」という概念。

この由々しき事態にも、RAINはKOH-1の意識が戻るまで静観したほうがいいと判断した。

医療チームの手厚い看護を受けてKOH-1は翌朝には、意識を取り戻した。

話せる状態だということでKOH-1は、RAINを病室に呼んでもらうと、こう伝えた。

今、自分は死んだものとされているらしいが、それで通していいと。

KOH-1は親友の2-YOSHIにさえ、死んだものとしてほしいと言ったのだ。

RAINは戸惑いを隠せなかった。

「どうして?本当は生きていたことを伝えたほうが皆、喜ぶ筈なのに?」

KOH-1は、ベッドから体を起こすと首をゆっくりと横に振った。

ヒューマノイドにとって、人間の死を理解してもらうのは、とても難しい。

かといって、ヒューマノイドには人間と同じように感情はある。

だから、難しいのだと。

いずれ人間に訪れる死を理解してもらうというのには、この「自分の死」がいい機会になると。

KOH-1は、自分がまだ人間だと知らずにヒューマノイドとして任務に遂行していた。

しかし、人間だと分かった時点で、すぐに頭をよぎったのは寿命だった。

人間の寿命というのは、あまりにもあっけなく短いものだ。

その短い人生をどう生き抜くか?ということが重要だと思った。

そういう死生観をヒューマノイドに説くのは難しい。

KOH-1は、自分が死んだことで、ヒューマノイドに芽生える意識を確認したかった。

無謀なことかもしれない、ましてや親友を欺くようなことをして辛い。

KOH-1は、それでも厳しい現実をヒューマノイドたちに突きつけた。


KOH-1は、ここまで一気に説明した。

黙って聞いていたジュニアだったが

「でも・・・・やっぱり2-YOSHIは、納得しないと思うよ?そんなの父さんのひとりよがりな考

えなんじゃない?」

KOH-1は、立派に成長した我が子の言葉にハッとさせられた。

「そうだな・・・。確かに、ひとりよがりだったな・・・。」

KOH-1は、哀しく笑った。

そんな父親の表情にジュニアは、すかさず

「でも・・・。父さんが生きていてくれて本当は、嬉しいんだ。だから、もう、いいよ。」

ジュニアは、大人の事情というものがあるのかもしれないと思っていた。

KOH-1の考え方には、正直ジュニアも理解できないところがあった。

それでも、KOH-1の決断は意味のあるものだったのだと・・・・。

久しぶりの親子3人水入らずは、どこがぎこちないものがあった。

親子2人の久しぶりの対面は涙・・・涙とはならなかった。

そんな空気をよそにRAINは、これからご馳走を作ると、はりきっている。


窓の外は、夕焼け雲が広がっていた・・・・。


~つづく~

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この記事へのコメント

Rain
2007年07月02日 20:54
ヒューマノイドが、寿命という面で人間より優越感を感じることのないようって意味もあるのかな?それを盾にして主導権を握ることのないよう?
まだごく身近な人の死というものを経験しておらず、理解できていない。と、言う意味では私もヒューマノイドと一緒かも。でもそれは頭とかではなく、それこそ眼に見えないものとして感じることでしか理解(?)できないものなのかも。2-YOSHIさんの声・想いがききたいですね。
SHINE
2007年07月04日 16:13
>Rainちゃん
そうだね?やはり、命の大切さをわかってもらうということでもヒューマノイドと人間の決定的な違いから、問題が起きないとは限らないんだよね?
私の場合、同居していた祖母を亡くしているので、その悲しみは切実でした。でも、心の中で祖母は生きていると実感しています。
2-YOSHIは、KOH-1が生きていることを今は知らないで地球に向かっています。
2-YOSHIの赤裸々な想い・・・。
KOH-1は、ちゃんと受け止めてあげて欲しいよ。
愛戦士桜
2007年07月06日 15:26
とにかく無事に親子の再会ができてよかったよね^^
2-YOSHIくんとも 大丈夫かな・・・桜もドキドキよ☆

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